イスラム教のルールとは?企業が知るべきタブー・礼拝・食事の職場対応を解説 - GTN MAGAZINE
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イスラム教のルールとは?企業が知るべきタブー・礼拝・食事の職場対応を解説

外国人採用が広がるなか、イスラム教徒(ムスリム)の従業員を受け入れる企業が急増しています。一方で「どこまで配慮すべきか分からない」「知らないうちに失礼な対応をしていないか不安」という声も少なくありません。

イスラム教は信仰が日常生活と深く結びついた宗教であり、食事・礼拝・人との接し方に一定のルールがあります。背景を理解しないまま対応すると、悪気がなくても本人にストレスを与え、早期離職やトラブルにつながることもあります。

本記事では、イスラム教の基本ルールと避けたいタブー、礼拝やラマダンへの実務対応、女性への接し方、企業が根拠として示せる法制度・一次情報まで現場目線で解説します。社内説明にそのまま使えるよう、官公庁資料の数値も併せて紹介します。

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イスラム教のルールを理解する前に押さえたい基本知識

イスラム教徒と働くうえでは、細かいルールを暗記するよりも「なぜそのルールがあるのか」という土台を理解するほうが実務では役立ちます。背景が分かれば、想定外の場面でも判断の軸を持てるからです。

ここでは企業担当者が押さえておきたい3つの視点、教義の全体像・日本国内での広がり・個人差が大きいという前提を整理します。

すべてのルールの土台となる「六信五行」

イスラム教のルールは、信じるべき6つの事柄(六信)と行うべき5つの義務(五行)に集約されます。ここを押さえておくと、礼拝や断食が「個人の習慣」ではなく信仰の中核をなす義務だと理解できます。

区分

内容

六信アッラー(唯一神)、天使、啓典(クルアーン)、預言者、来世、天命
五行信仰告白(シャハーダ)、礼拝(サラート)、喜捨(ザカート)、断食(サウム)、巡礼(ハッジ)

五行のうち、職場運営に直接影響するのは礼拝と断食です。喜捨は資産の一定割合(一般に2.5%程度)を寄付する行為、巡礼は聖地メッカへの訪問で、生涯に1回可能であれば行うものとされ、長期休暇の相談として現れることがあります。なお、これらは企業が管理・監督する対象ではなく、本人が自主的に実践するものです。

出典:一般社団法人ハラル・ジャパン協会|イスラム教について

日本のムスリム人口は約42万人まで拡大している

イスラム教は世界で約20億人、世界人口のおよそ4人に1人が信仰する宗教です。日本国内でも信者は着実に増えています。

滞日ムスリム調査プロジェクトの推計によれば、2024年末時点で日本国内のムスリム人口は約42万人。内訳は外国人ムスリムが約36万3,000人、日本人ムスリムが約5万5,000人とされ、全国のモスク(マスジド)も過去25年で大きく増加しました。

出典:日本経済新聞|国内モスク、25年で10倍 人手不足でイスラム教徒増加

背景にあるのは労働市場の変化です。厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人と過去最高を更新。うち世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシア人労働者は22万8,118人で、前年比34.6%増と大きく増加しています。イスラム教への理解は、採用・配属・労務管理に直結する実務スキルになりつつあります。

出典:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」厚生労働省 

宗派・出身国で実践の度合いは大きく異なる

見落とされがちですが、ムスリムなら全員が同じ対応を必要とするわけではありません。大きくスンニ派とシーア派に分かれ、出身国や家庭環境によって実践の厳格さも異なります。宗教上のルールをどの程度実践するかは、宗派や地域、文化、家庭環境、本人の考え方などによっても異なります。 

「ムスリムだからこうに違いない」と一括りにする対応こそ、最も失敗しやすいパターンです。実務では、採用時や入社時に「働くうえで配慮してほしいことはありますか」と直接確認するのが最短かつ確実といえます。想像で先回りすると、本人が望まない過剰な配慮になったり、逆に必要な配慮が抜け落ちたりするためです。

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イスラム教の食事のルール(ハラール)と職場での実務対応

イスラム教のルールのなかで企業が最も頻繁に直面するのが食事です。イスラム法で許されたものを「ハラール」、禁じられたものを「ハラーム」と呼びます。

社員食堂、歓迎会、会食、社員旅行、出張時の弁当手配など、食事が関わる場面は想像以上に多いもの。ここを外すと本人が黙って我慢するか、社内行事に参加できず孤立してしまいます。食事対応は福利厚生ではなく、定着率に直結する労務課題と捉えるのが実態に近いでしょう。

ハラームに該当する主な食品

まず押さえるべき禁止対象を整理します。豚肉とアルコールが有名ですが、実際の範囲はやや広めです。

分類

具体例

注意したい場面

豚肉と豚由来成分豚肉、ハム、ベーコン、ラード、豚由来ゼラチン社員食堂、菓子折り、ゼリー・グミ
アルコール酒類、料理酒、みりん、洋酒入り菓子懇親会、和食の煮物、贈答品
非ハラール処理の食肉作法にのっとって処理されていない牛肉・鶏肉弁当手配、外食全般
血液血液を用いた加工品一部の輸入食品

豚肉を除けば大丈夫、という理解は不十分です。日本の食品には、乳化剤・ショートニング・調味料などの形で豚由来成分やアルコールが含まれるケースが多く、原材料表示だけでは判断が難しいこともあります。

一方で、誤って口にした場合は本人の意図が問われないとされるのが一般的な考え方です。企業側が過度に萎縮する必要はなく、「分からないものは事前に共有する」運用に落とし込むのが現実的でしょう。

ハラール認証は万能の証明書ではない

ハラール対応を検討すると、多くの企業が認証取得を思い浮かべます。しかし前提として知っておきたいのが、日本のハラール認証には国が定めた統一基準が存在しない点です。

一般社団法人ハラル・ジャパン協会によれば、国内には30以上の認証機関があり、法人格も基準も機関ごとに異なります。マレーシアのJAKIMやインドネシアのBPJPHのような政府機関による認証とは性質が違うため、「認証があるから全員が食べられる」とは限りません。

出典:一般社団法人ハラル・ジャパン協会|ハラル認証について

社内での実務判断は、次の順序が現実的です。

  • まず本人に、どこまでを許容範囲としているか確認する
  • 原材料表示と製造工程(調理器具の共用有無)を共有する
  • 判断が難しいものは無理に勧めず、選択肢を複数用意する

従業員への配慮が目的なら、認証よりも情報開示と選択肢の確保のほうが費用対効果は高いといえます。

社員食堂・懇親会・出張で押さえたい運用

日常運用で効果が大きいのは、大がかりな設備投資ではなく小さな仕組み化です。総務省中部管区行政評価局の調査でも、一般メニューへの豚肉表示を行っている事業所は25.0%にとどまり、表示の徹底だけで改善余地があると分かります。

出典:総務省 中部管区行政評価局|宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査(平成29年12月)

次の運用は、比較的導入しやすいでしょう。

  • 社員食堂のメニューに豚肉・アルコール使用の有無を表示する
  • 懇親会は会場予約前に食事制限を確認し、魚・野菜中心の店を選ぶ
  • 飲み物はアルコール以外の選択肢を用意し、乾杯を強制しない
  • 出張・研修時の弁当手配で、事前に本人へ確認する担当者を決めておく
  • 調理器具の共用が気になる人向けに、持参弁当を温められる環境を整える

「特別扱い」ではなく「選べる状態をつくる」という発想に切り替えれば、対応コストは大きく下がります。アレルギー対応と同じ枠組みで考えると、社内の理解も得やすいでしょう。

1日5回の礼拝(サラート)と職場での現実的な対応

礼拝は五行の1つであり、原則として1日5回行われます。企業側で最も相談が多いテーマですが、実際に業務時間へ影響するのは限られた回数です。礼拝そのものは数分から10分程度で終わることが多く、清めの時間を含めても15分程度が目安となります。

「毎日5回、業務が止まる」という誤解を解くことが、社内理解を得るうえでの第一歩と言えます。

5つの礼拝の名称と時間帯を把握する

礼拝は太陽の位置を基準に時間が決まるため、季節によって時刻が動きます。日本の一般的な勤務時間帯(9時から18時)に重なるのは通常2回程度です。

礼拝名

時間帯の目安

勤務時間への影響

ファジュル夜明け前から日の出まで出勤前のため影響なし
ズフル正午過ぎ昼休憩と重なりやすい
アスル午後(15時前後)小休憩での対応が現実的
マグリブ日没直後冬季は終業前に重なる場合あり
イシャー夜間夜勤以外は影響なし

つまり、昼休憩をズフルに充て、アスルは10分程度の小休憩でカバーする運用が組めれば、多くの職場で業務に大きな支障は生じません。会議設定時に15時前後を避けるだけでも効果があります。

ウドゥ(清め)と礼拝スペースの用意

礼拝の前には、手・口・鼻・顔・腕・足などを水で清める「ウドゥ」を行います。企業が見落としがちなのがこの水回りで、洗面台で足を洗う様子が誤解されるケースも少なくありません。事前に社内へ趣旨を共有しておくだけで、無用な摩擦を避けられます

礼拝スペースは、専用室を新設する必要はありません。総務省中部管区行政評価局の調査でも、礼拝スペースまたはウドゥ施設を提供している事業所は70.0%に上る一方、専用の礼拝施設を設置しているのは15.0%にとどまり、会議室などの既存スペースを転用することがほとんどのようです。

出典:総務省 中部管区行政評価局|宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査(平成29年12月)

用意する際のポイントは次のとおりです。

  • 静かで、人の出入りが少ない場所であること
  • メッカの方角(キブラ)を向けるだけの広さがあること
  • 清潔で、土足のまま入らない運用ができること
  • 使用したい時間帯を予約できる仕組みがあること

空き会議室に予約枠を設けるだけでも実用に足ります。コストをかけずに始められる領域です。

金曜礼拝(ジュムア)とシフト調整

意外と知られていないのが金曜日の集団礼拝(ジュムア)です。成人男性は金曜日の昼過ぎにモスクへ集まり、集団で礼拝することが推奨されています。移動時間が発生するため、1時間から2時間程度の外出が必要になることもあります。

もちろん業務を止めてまで対応する義務はありませんが、事前に希望を確認しておけば選択肢は広げることができます。

  • 金曜日の昼休憩を長めに設定し、他日で調整する
  • シフト制の職場では、金曜昼の時間帯を避けた勤務割にする
  • 近隣にモスクがない場合は、社内スペースでの礼拝に切り替えてもらう

本人が「言い出せずに無断で離席する」状況が最も避けたいパターンです。希望を出せる導線を制度として用意することが、労務管理の安定につながります。

ラマダン(断食)とイードへの対応

ラマダンはイスラム暦の第9月に行われる断食月で、日の出前から日没まで飲食を断つ宗教行事です。五行の1つであり、影響が約1か月続くため、あらかじめ想定しておく価値があります。

一方で、すべてのムスリムが同じ負担を感じるわけではありません。体調不良者や旅行中の人などには免除規定があり、本人の判断で調整されます。企業側が断食の可否に立ち入る必要はなく、安全配慮の観点から業務量を調整できる体制を整えておくのが基本姿勢となります。

時期は毎年約11日ずつ早まる

ラマダンはイスラム暦(太陰暦)に基づくため、西暦のカレンダー上では毎年約11日ずつ前倒しになります。日程は月の観測で最終決定されるため、開始日が1日前後することもあるので、時期が近付いたら確認するなど注意をすることで万全を期すことができます。

ラマダン開始(目安)

イード・アル・フィトル(目安)

2026年断食開始 2月19日3月20日
2027年2月8日頃3月上旬
2028年1月下旬2月下旬

当面は冬季に当たるため、日照時間が短く断食時間も比較的短くなります。それでも日中の飲食を断つ点は変わりません。年間の業務計画を立てる際、この時期を把握しておくと調整がしやすくなります。

安全衛生の観点から見直したい業務

ラマダン中は、水分と食事を長時間摂らないため集中力や体力が低下しやすくなります。特に注意したいのは、事故リスクを伴う業務です。

  • 高所作業、重量物の取り扱い、フォークリフトなどの運転業務
  • 高温環境での作業(製造ライン、厨房、屋外工事など)
  • 長時間の連続運転や深夜勤務

これらに従事する場合は、シフトの前倒し、休憩回数の増加、ペア作業への切り替えなど、労働安全衛生の観点から調整を検討するのが望ましいでしょう。

人事評価でも注意が必要です。ラマダン期間中の一時的なパフォーマンス低下だけで評価を下げると、実質的に信仰を理由とした不利益取扱いと受け取られかねません。評価期間の設定や評価コメントの記載方法を、あらかじめ確認しておくと安心です。

イード(祝祭)の休暇希望への向き合い方

ラマダン明けには「イード・アル・フィトル」、その約70日後には「イード・アル・アドハー」という大きな祝祭があります。イスラム圏では日本の正月に相当する行事で、家族や同胞と集まって祝う習慣があります。

また、日本では法定休日ではないため、有給休暇の取得希望として現れるのが一般的です。日付が月の観測で直前まで確定しない点を踏まえ、次の運用にしておくと調整しやすくなります。

  • 有給休暇の希望日として、早めに仮予約できる運用にしておく
  • 前後1日程度の変更を許容する
  • 繁忙期と重なる場合は、時間単位や半日単位での取得を提案する

「宗教行事だから特別に休ませる」のではなく「有給休暇の取得しやすさを整える」という設計にすれば、他の従業員との公平性も保ちやすいはずです。

【要注意】イスラム教で触れてはいけないタブー

タブーに触れてしまうと、本人が強い不快感を覚えるだけでなく、信頼関係の回復に長い時間がかかります。悪気のない一言が誤解を生まないよう、代表的な例を押さえておきましょう。

ここで紹介するタブーは、知っていれば避けられるものがほとんど。現場のリーダー層や日常的に接する同僚まで共有しておけば、トラブルの多くは未然に防ぐことが可能です。

飲食・言動に関する代表的なタブー

最も発生しやすいのが飲食の場面です。善意からの行動が、結果的に相手を追い込むことがあります。

  • 飲酒を勧める、乾杯を強制する、「一口だけなら」と促す
  • 禁止されている食品を「せっかくだから」と勧める
  • 差し入れやお土産に、豚肉加工品やアルコール入り菓子を選ぶ
  • 信仰を冗談やからかいの対象にする
  • 礼拝を頭ごなしに禁止する、あるいはサボりと決めつける
  • ヒジャブを無断で外させる、または触れる

特に注意したいのが、「日本では普通だから大丈夫」「少しくらい問題ないでしょう」という言い回しです。信仰そのものを軽視されたと受け取られやすく、本人には強い否定に感じられます。会食の場では「食べられないものはありますか」と一言確認するだけで、多くの気まずさを回避できると考えられます。

なお、労働基準法第3条は、信条などを理由とする労働条件上の差別的取扱いを禁止しています。また、宗教を揶揄する言動などがパワーハラスメントの3要件を満たす場合には、パワーハラスメントに該当する可能性があります。日本国憲法第20条は信教の自由を保障しており、企業は、信仰を理由として労働条件について差別的な取扱いをすることはできません。社内研修では「配慮」だけでなく「コンプライアンス」の文脈でも整理しておくと、管理部門や管理者の理解が進みやすいです。

出典:衆議院|日本国憲法厚生労働省|外国人の雇用

見落としやすい生活上のタブー

食事や礼拝以外にも、日本の職場慣行と衝突しやすい領域があります。事前に知っておくと、企画段階で調整できます。

項目

内容

該当しやすい場面

賭け事偶然性で利益を得る行為が禁じられる忘年会のビンゴ、社内抽選
利子(リバー)利子の授受が禁じられる社内融資制度、財形貯蓄の案内
偶像崇拝崇拝対象となる像や絵の扱いに配慮社内神棚、神社への安全祈願
左手の扱い左手は不浄とされることがある名刺交換、物の受け渡し
唾液への接触を避ける考え方があるペット同伴イベント、犬柄のノベルティ

これらは強制参加でなければ問題になりにくい領域です。社内行事の企画時に「参加しない選択肢がある」と明示しておけば、多くのケースは解決します。

イスラム教の女性に接する際の注意点

イスラム教では、男女間の距離感や服装に関する考え方が日本の職場慣行と異なる場合があります。戸惑う場面もあるかもしれませんが、原則は本人の意思を尊重し、形式にこだわらないことです。

日常の接し方だけでなく、面接・健康診断・更衣室といった人事イベントでの配慮も必要になります。あらかじめ想定しておけば、本人が申し出にくい場面を減らせます。

身体接触と距離感への配慮

信仰上の理由から、家族以外の異性との身体接触を避ける女性がいます。握手を求められた際に応じられないケースもあり、日本の商習慣とすれ違いが生じやすい部分です。

対応はシンプルで、こちらから手を差し出す前に、まず会釈で様子を見るだけで十分。相手が手を差し出せば握手し、そうでなければ会釈で返す。この順序を守れば、双方の気まずさを避けられます。肩を叩く、背中を押すといったスキンシップも避けたほうが無難でしょう。

個室での1対1の面談を避け、ガラス張りの会議室やオープンスペースを選ぶ配慮も、本人の安心感につながります。

ヒジャブと安全衛生・制服規定の両立

髪を覆う「ヒジャブ」を着用する女性は少なくありません。企業側で検討が必要になるのは、制服規定や安全衛生基準との両立でしょう。

職場環境

想定される論点

対応の方向性

製造ライン巻き込まれ防止、異物混入内側に収まる形状へ変更、ネット併用
食品工場・厨房衛生基準、毛髪落下防止洗浄可能な素材、専用インナーキャップ支給
医療・介護感染対策、動作の妨げ短めの形状、着脱しやすい仕様
オフィス服装規定との整合色を制服に合わせる、規定に明文化する

重要なのは、「着用禁止」と「無制限に許可」の二択で考えないことです。安全上の懸念があるなら、形状や素材を変えて両立できないかを本人と一緒に検討します。企業側が選択肢を提示し費用を負担する姿勢を見せれば、本人も納得しやすくなるでしょう。

面接・健康診断・更衣室での場面別配慮

人事イベントには、本人から申し出にくい論点がいくつもあります。企業側から先に確認しておけば、余計な負担をかけずに進められます。

  • 面接:ヒジャブ着用のまま面接を受けられることを事前に案内する
  • 健康診断:女性の医師・技師を希望できるか、選択肢を示す
  • 更衣室:着替えのスペースを確保し、カーテンや個室の有無を確認する
  • 社員旅行・研修:同性同士の相部屋にする、個室オプションを用意する

これらはイスラム教徒に限らず、多様な従業員の働きやすさにつながる施策でもあります。宗教対応として特別に構えるより、全社の職場環境整備の一環として組み込むほうが社内の合意も得やすいでしょう。

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企業が根拠として示せる法制度と社内体制の作り方

社内で宗教への配慮を進める際、最も難しいのが「なぜそこまでやるのか」という説明です。感覚論で語っても社内は動きません。

法制度上の位置づけと官公庁が示す指針・データを押さえておけば、稟議は通りやすくなります。ここでは、上長や法務・コンプライアンス部門への説明に耐える根拠を整理します。

信教の自由と厚生労働省の指針(2026年改正)

日本国憲法第20条は信教の自由を保障していますが、企業へ具体的な設備設置を義務づけるものではありません。実務上の根拠となるのは、労働契約法上の安全配慮義務、労働施策総合推進法に基づくハラスメント防止措置、そして厚生労働省の指針です。

出典:衆議院|日本国憲法

厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は事業主に対し、日本の生活習慣や文化への理解を深めるための指導に加え、給食・医療・教養・文化等の施設利用について外国人労働者にも十分な機会が保障されるよう努めることを求めています。

同指針は2026年に改正され、基本的な考え方や日本語教育支援に関する規定が2026年6月14日から施行されました。2027年4月1日には育成就労制度に対応した規定も施行予定です。

出典:厚生労働省|外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針厚生労働省|同指針の一部を改正する告示案概要(令和8年5月15日 職業安定分科会)

官公庁の調査データを社内説明に活用する

他社の実態を示せると説得力が増します。総務省中部管区行政評価局「宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査」では、以下の数値が公表されています。

項目

事業所

大学

礼拝スペースまたはウドゥ施設を提供70.0%53.3%
専用の礼拝施設を設置15.0%13.3%
一般メニューへの豚肉表示を実施25.0%60.0%

※同調査は中部6県のムスリム従業員・留学生が在籍する事業所20社・大学15校を抽出したもの(平成29年=2017年実施)。母数が小さく、イスラム圏に事業展開する企業が対象に選ばれているため、日本企業全体の平均ではなく「先行事例の到達点」として読む必要があります。社内資料に引用する際は、調査年・調査対象数を必ず併記してください。

出典:総務省 中部管区行政評価局|宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査(平成29年12月)

注目すべきは、礼拝スペースを提供する事業所は7割に達する一方、専用施設を設けているのは15.0%にとどまる点です。多くの企業は既存スペースの転用で対応しており、大規模な投資をせずとも実務が回っていることが分かります。なお同調査は平成29年(2017年)実施のため、引用時は調査年を明記しておくと安全です。

配慮レベルを3段階で設計する

すべてに対応しようとすると疲弊します。コストと効果で優先順位をつけ、段階的に整備するアプローチが現実的です。

段階

施策例

想定コスト

第1段階(すぐ着手)入社時ヒアリング、食堂の豚肉・アルコール表示、ノンアル常備、社内向け簡易ガイドライン作成ほぼ不要
第2段階(半年以内)空き会議室の礼拝利用ルール化、金曜礼拝のシフト調整、服装規定の明文化、管理職研修
第3段階(中長期)専用礼拝スペースの整備、ウドゥ用設備の設置、社員食堂のハラールメニュー導入中〜高

まず取り組むべきは第1段階です。費用がほぼかからないにもかかわらず、本人の安心感に与える効果が大きいからです。簡易ガイドラインを現場に配布するだけでも、担当者ごとの対応のばらつきは解消されます。第3段階は、ムスリム従業員の人数がまとまってから検討しても遅くありません。

なお、受け入れ体制の構築や生活面のサポートを自社だけで抱えるのが難しい場合は、外国人材の受入れ支援サービスを活用する選択肢もあります。

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イスラム教のルールに関するよくある質問(FAQ)

最後に、企業担当者から寄せられることの多い質問を、現場で迷いやすいポイントを中心に整理しました。

Q. 加熱してアルコールが飛んだ料理は問題ありませんか。

判断は個人によって分かれます。「加熱により揮発していれば問題ない」と考える人もいれば、原材料に含まれる時点で避ける人もいます。自己判断せず、本人に確認するのが確実です。

Q. 礼拝の時間は労働時間として扱うべきですか。

法令上の明確な定めはありません。実務上は、既存の休憩時間内で対応してもらうか、小休憩として扱うケースが一般的です。就業規則や個別の合意で運用方法を明示しておくと、後々のトラブルを防げます。

Q. お土産や記念品で避けるべきものはありますか。

アルコール類、豚肉加工品、ゼラチンを含む菓子、犬をモチーフにした雑貨は避けたほうが無難です。和菓子、果物、日用品、文房具などが選びやすい選択肢になります。

Q. ラマダン中の残業や休日出勤は依頼してもよいですか。

依頼自体に問題はありません。ただし体調面への影響を考慮し、本人の意向を確認したうえで判断するのが望ましいでしょう。特に危険を伴う作業は、業務内容の調整を検討してください。

Q. 本人が配慮を「不要」と言った場合はどうすべきですか。

その言葉を尊重して問題ありません。ただし遠慮している可能性もあるため、入社後しばらくしてから改めて確認する機会を設けると安心です。

まとめ

イスラム教のルールは、六信五行という信仰の土台の上に成り立っています。企業が押さえるべきは、礼拝、食事(ハラール)、ラマダン、女性への接し方という4領域と、避けるべきタブーです。

重要なのは、すべてに完璧に対応することではありません。本人に確認し、選べる状態を用意し、できる範囲を誠実に伝える。この3つが揃っていれば、多くの場面は問題なく運用できます。実際、礼拝またはウドゥへの配慮を行っていた事業所は7割にのぼる一方、専用の礼拝施設を設置していたのは15.0%(3事業所)にとどまります。また、同調査では残りは簡易な礼拝スペースの確保(25.0%)や会議室等の転用(20.0%)で対応しており、大規模な投資がなくても実務は回ることが分かります。

日本のムスリム人口は約42万人に達し、インドネシアをはじめムスリム人口の多い国からの労働者も急速に増えています。宗教への理解は、もはや一部の企業だけの課題ではありません。厚生労働省の指針でも、生活習慣や文化への理解を深める取り組みが事業主に求められています。

働きやすい職場は安心感を生み、定着率の向上につながるもの。人材獲得競争が激化するなか、こうした環境づくりは企業の魅力を高める要素の1つになるでしょう。まずは入社時のヒアリングや食堂表示など、費用のかからない第1段階から着手してみてください。小さな配慮の積み重ねが、結果として職場全体の働きやすさにつながります。

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