家賃の値上げはどう進める?法的根拠と通知・交渉の5ステップ - GTN MAGAZINE
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家賃の値上げはどう進める?法的根拠と通知・交渉の5ステップ

家賃の値上げは、物価上昇や修繕費・管理費の高騰、周辺賃料の上昇などを背景に、避けて通れない課題となっています。

しかし、家賃はオーナーの判断だけで自由に引き上げられるものではなく、借地借家法第32条に基づき、現在の賃料が不相当となったことを示す客観的な事情を確認したうえで、適切に増額請求や交渉を進める必要があります。

十分な根拠や準備がないまま交渉を進めると、入居者とのトラブルや退去につながりかねません。

この記事では、家賃の値上げ交渉に関する法的根拠や、増額請求が認められるための要件、具体的な進め方を5つのステップで解説します。

あわせて、値上げ通知書の書き方や拒否された場合の法的対応、退去リスクを抑える方法、外国人入居者に説明する際の注意点まで紹介します。

家賃の値上げ交渉が必要になる背景と現状

賃貸経営において、家賃の見直しは避けて通れないテーマになりつつあります。

物価上昇や建築コストの高騰が続く中、現行の家賃水準では収支が合わなくなるケースが増えています。

近年は東京都23区をはじめ都市部で賃料の上昇傾向が続いています。

出典:公益財団法人 東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向」

賃貸経営で家賃の値上げが避けられない3つの理由

家賃の値上げが必要となる理由は、主に3つあります。

1つ目は、固定資産税や都市計画税の上昇です。土地・建物の固定資産税評価額や課税条件が変われば、税負担が増えることがあります。ただし、評価替えは原則3年ごとであり、評価額の上昇がそのまま同じ割合の税額上昇につながるとは限りません。

2つ目は、修繕費・管理費の高騰です。建築資材の価格上昇や人件費の増加により、大規模修繕の費用は年々上がっています。屋根や外壁の補修、設備交換にかかるコストを現行の家賃収入で賄えないケースが増えています。

3つ目は、周辺相場との乖離です。長期入居者の家賃が新規募集賃料よりも大幅に低い場合、収益機会を逃していることになります。周辺の同条件物件と比較して著しく安い賃料を放置することは、経営判断として見直しが求められます。

固定資産税・修繕費の上昇と家賃水準のギャップ

実際にどの項目でコスト増が発生しているか、近年の傾向と影響についてまとめました。

費用項目近年の傾向オーナーへの影響
固定資産税地価上昇に伴い評価額が上昇傾向年間の税負担が増加
大規模修繕費建築資材費の高騰・人件費上昇により増加傾向修繕積立金の不足が発生
管理委託費人件費上昇により管理費が増加傾向手取り収入の圧迫
火災保険料自然災害の増加などで保険料が上昇更新時の負担が増加

これらのコスト増を吸収するために、家賃の適正化は合理的な経営判断といえます。

ただし、値上げには法律で定められた要件を満たす必要があります。

家賃の値上げの法的根拠と認められる条件

家賃の値上げは、オーナーの一方的な判断だけでは実行できません。

借地借家法に定められた要件を満たし、現在の家賃が不相当となったことを示す客観的な事情を示す必要があります。

まずは、どのような場合に家賃の増額請求ができるのかを押さえておきましょう。

借地借家法第32条が定める賃料増額請求の要件

借地借家法第32条は、賃料増減額請求権について定めた条文です。この条文により、一定の条件を満たせばオーナーは賃料の増額を請求できます。

借地借家法では、賃料が不相当となったかを判断する事情として次の3点を挙げています。

  • 土地や建物にかかる租税その他の負担が増加したとき(固定資産税の上昇など)
  • 土地や建物の価格が上昇し、その他の経済事情に変動があったとき
  • 近隣の同種建物の賃料と比較して現行賃料が不相当になったとき
     

これらは、現行賃料が不相当となったかを判断する主な事情です。

いずれかの事情があっても当然に増額が認められるわけではなく、契約内容や従前の改定経緯なども含めて総合的に判断されます。

なお、契約書に「一定期間は賃料を増額しない」という特約がある場合、その期間中は原則として増額請求ができないため、契約内容を事前に確認することが大切です。

家賃の増額を検討する際の主な判断材料 

具体例増額検討への影響確認・検討事項
固定資産税が大幅に上昇した増額請求の根拠となり得る税額の変動を示す通知書や課税明細書などを提示する
近傍同種の建物の賃料と比べて現行賃料が低い増額請求の根拠となり得る立地、築年数、面積、設備、契約条件、成約賃料などが近い物件と比較する
物価上昇で管理コストが増大増額請求の根拠となり得る修繕費や管理費など、具体的な費用の増加を資料で示す
増額しない特約が有効期間内慎重な検討が必要特約の内容や有効期間、賃料改定に関する定めを確認する
値上げの根拠資料がない慎重な検討が必要増額請求が直ちに無効になるわけではないが、合意形成や裁判での立証が難しくなる
入居直後に大幅値上げ慎重な検討が必要契約締結時の事情、賃料決定の経緯、経過期間、その後の経済事情の変動などを総合的に検討する

※本表は借地借家法第32条に基づく一般的な判断の目安を示したものです。

※賃料増額請求の可否は、租税その他の負担の増減、土地・建物価格や経済事情の変動、近隣同種建物の賃料との比較などを総合的に考慮して判断されます。

交渉を始める前に、自物件がどのケースに該当するかを客観的に整理しておくことが大切です。

家賃の値上げ交渉の具体的な進め方5ステップ

法的根拠を確認した上で、実際にどう交渉を進めるかが最も大切なポイントです。

入居者に納得してもらうには、理由を感覚ではなく資料で示し、順を追って話し合うことが重要です。

ここでは5つのステップに分けて解説します。

ステップ1.周辺相場と根拠資料の準備

事前準備では、以下の資料を揃えることから始めましょう。

  • 周辺の同条件物件の賃料データ(不動産ポータルサイトや管理会社から取得)
  • 固定資産税の通知書(過去数年分の推移が分かるもの)
  • 修繕費や管理費の増加を示す明細書
  • 不動産会社による賃料査定書
     

入居者に「なぜ値上げが必要なのか」を具体的に説明するための裏付けとなります。

口頭での説明だけでは説得力に欠けるため、書面で示せる状態にしておくことが望ましいです。

ステップ2.値上げ通知書の作成と送付方法

根拠資料が揃ったら、入居者に対して正式な通知書を作成します。通知書には以下の項目を明記します。

  • 現行の賃料額
  • 改定後の賃料額
  • 改定の適用開始日
  • 値上げの理由(具体的に記載)
  • 入居者への配慮を示す文面
     

法律上、賃料増額請求を契約更新時に限定する規定や、一律の事前通知期限はありません。

ただし、請求内容と相手方への到達日を記録するため、実務上は書面で通知することが望まれます。

通知内容を記録する場合は内容証明郵便、相手方への配達日も記録する場合は配達証明を併用する方法があります。

値上げ幅の目安は、周辺相場や契約内容を踏まえて個別に判断されます。

周辺相場との乖離が大きい場合でも、一度に大幅な値上げを行うと合意が得られにくくなるため、段階的な値上げを提案する方法も選択肢の一つです。

ステップ3.入居者との交渉の進め方と伝え方のコツ

通知書を送付した後、入居者から質問や異議が出ることは珍しくありません。交渉の場では以下のポイントを意識します。

  • 高圧的な態度は避け、丁寧かつ冷静に説明する
  • 値上げの理由を客観的なデータで裏付ける
  • 入居者の事情にも耳を傾ける姿勢を見せる
  • 代替案の提示(段階的な値上げ、設備改善とのセットなど)も準備しておく
     

オーナー自身が交渉を行う場合、感情的になりやすい点に注意が必要です。管理会社に委託している場合は、通知書の発送、入居者への事務連絡、意向確認などを依頼できる場合があります。

ステップ4.合意書の締結と契約書の変更手続き

入居者との間で値上げの合意が得られたら、口頭での合意だけで終わらせず、書面で記録を残します。

合意書に記載すべき内容は以下の通りです。

  • 改定前の賃料額と改定後の賃料額
  • 改定の適用開始日
  • 双方の署名・押印
  • 合意に至った日付
     

合意書の締結後、賃貸借契約書の変更手続き(覚書の作成)も併せて行います。管理会社を通じて手続きする場合は、書類の準備を依頼できるため、オーナーの手間は最小限に抑えられます。

ステップ5.合意に至らない場合の調停・訴訟の流れ

賃料増額請求に関する訴えを提起する場合は、原則として、先に簡易裁判所へ調停を申し立てる必要があります。

調停で合意に至らなかった場合は、訴訟による解決を検討します。なお、裁判所が調停に付することを適当でないと認めた場合には、例外的な取扱いもあります。
 

手続き概要目安期間
調停簡易裁判所で調停委員が仲介3〜6か月
訴訟裁判官が判決を下す6か月〜1年以上
鑑定不動産鑑定士が適正賃料を算定訴訟中に実施

訴訟に至ると時間も費用もかかるため、できる限り交渉段階で合意を目指すことが双方にとって望ましい結果となります。

なお、増額について協議が調わない間、借主は、増額を正当とする裁判が確定するまで、自らが相当と認める額の賃料を支払うことができます。

ただし、裁判で確定した賃料額に不足があった場合は、不足額に年1割の利息を付して支払う必要があります。

出典:借地借家法第32条第2項

家賃の値上げ交渉でありがちなトラブルと対処法

値上げ交渉は、入居者との関係に緊張をもたらす場面です。事前にトラブルのパターンを知っておくことで、冷静な対応が可能になります。

入居者が値上げを拒否した場合の法的対応

入居者が値上げを拒否した場合でも、オーナーには法的な手段が用意されています。まず、拒否されたからといって即座に退去を求めることはできません。借地借家法は入居者の居住権を保護しているためです。

拒否された場合の対応手順は以下の通りです。

  • 再度の書面による交渉(値上げ理由の補足説明や代替案の提示)
  • 管理会社や弁護士を交えた第三者による交渉
  • 簡易裁判所への調停申立て
  • 調停不成立の場合は訴訟提起
     

裁判で確定した賃料額が既に支払われた額を上回る場合、借主は不足額に、各支払期後から年1割の利息を付して支払う必要があります。

この規定があるため、適正な値上げ請求を行ったオーナーの利益は法的に保護されています。

出典:借地借家法第32条第2項

値上げ交渉後の退去リスクを抑える方法

値上げを申し入れた結果、入居者が退去を選択するリスクは常に存在します。退去が発生すると、空室期間中の賃料損失に加え、原状回復費用や新規募集費用が発生します。

退去リスクを抑えるための対策を整理します。

  • 値上げ幅を段階的に設定する(初年度は5%、翌年さらに5%など)
  • 設備のリニューアルとセットで提案する(値上げの納得感を高める)
  • 長期入居者には優遇措置を設ける(値上げ幅の軽減など)
  • 更新時に値上げを実施し、契約途中の通知は避ける
     

空室期間の損失と値上げによる増収を比較し、損益分岐点を事前に計算しておくことも判断材料になります。

例えば従前家賃が月6万円で、空室期間が2か月、値上げ額が月5,000円の場合、空室中の賃料損失12万円を回収するだけでも24か月かかります。原状回復費や募集費用を含めると、回収期間はさらに長くなります。

この試算を踏まえた上で、値上げの幅とタイミングを慎重に決定することが求められます。

外国人入居者への家賃の値上げ交渉で注意すべきポイント

外国人入居者に対して家賃の値上げを行う場合、日本人入居者とは異なる配慮が必要なケースもあります。

通知内容が正しく伝わるよう、言語面の準備や連絡方法をあらかじめ整えておく必要があります。

言語の壁を超える通知・説明の工夫

外国人入居者への家賃の値上げ通知では、日本語の書面だけでは内容が十分に伝わらない可能性もあります。

以下の対策を講じることで、認識のズレを防ぎましょう

  • 通知書を入居者の母語(または英語)に翻訳して同封する
  • 値上げの理由と金額を図表やグラフで視覚的に示す
  • 対面での説明時に通訳サービスを活用する
  • やさしい日本語(短文・平易な語彙)での説明文も添付する
     

多言語での対応が難しい場合は、外国人入居者支援に特化した専門サービスの活用も検討しましょう。

例えば、通知書の翻訳や入居者との間に入ったコミュニケーションサポートを提供しているケースもあります。

文化的背景を踏まえた交渉アプローチ

海外では賃貸契約の仕組みが日本と異なるケースがあり、「なぜ家賃が途中で上がるのか」という根本的な疑問を持つ入居者も少なくありません。

たとえば、光熱費が家賃に含まれる国から来た入居者は、家賃と別途費用の区分自体に戸惑う場合があります。

また、契約更新の概念がない国の出身者にとっては、更新時の条件変更が唐突に感じられることもあります。

こうした文化差を踏まえ、交渉時には以下の点を意識します。

  • 日本の賃貸制度の仕組み(契約更新、賃料改定の慣行)を丁寧に説明する
  • 値上げの理由を感情論ではなくデータで示す(外国人入居者も納得しやすい)
  • 書面でのやり取りを基本とし、記録を残す
  • トラブル防止のため、保証会社や管理会社を通じた連絡体制を整える
     

外国人入居者との交渉を管理会社や保証会社に委託することで、翻訳や説明対応を任せられるため、オーナーが個別に対応する負担を抑えやすくなります。

家賃の値上げを円滑に進めるための仕組みづくり

家賃の値上げ交渉は、その都度時間や手間がかかるため、交渉を円滑に進められる仕組みや運用体制を事前に整えておくことが重要です。

契約更新時の値上げ条項を事前に設定する方法

賃貸借契約書に、賃料改定に関する条項をあらかじめ盛り込んでおく方法があります。具体的には、以下のような条項が考えられます。

  • 「契約更新時に、周辺相場や経済事情の変動を踏まえて賃料を協議する」旨の条項
  • 「消費者物価指数の変動率に応じて賃料を改定できる」旨の条項
  • 「更新料の支払いと併せて賃料の見直しを行う」旨の条項
     

賃貸借契約書に賃料改定の考え方や協議時期を記載しておくことで、将来、賃料を見直す可能性を当事者間で共有しやすくなります。

ただし、「賃料について協議する」と定めた条項だけで、貸主が一方的に賃料を変更できるわけではありません。

指数に連動する改定条項を設ける場合も、算定方法や借地借家法第32条との関係を専門家に確認することが望まれます。

入居者にとっても、契約時点で将来の賃料改定の可能性を認識できるため、値上げの通知を受けた際の心理的な抵抗が軽減されます。

ただし、借地借家法第32条に基づく賃料増減額請求権は強行規定であるため、「賃料を増額しない」旨の特約は入居者の利益保護のために有効ですが、「賃料を減額しない」旨の特約は無効となる点に注意が必要です。

契約条項の設計は、不動産に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

管理会社・専門サービスを活用した交渉の効率化

管理会社に委託できる範囲は、管理受託契約や各社のサービス内容によって異なります。通知書の発送、入居者への事務連絡、意向確認などを依頼できる場合があります。

一方、紛争性のある個別交渉や法律判断、調停・訴訟への対応が必要な場合は、弁護士などの適法に対応できる専門家へ相談する必要があります。

外国人入居者への対応では、多言語対応の管理会社や保証会社、入居者支援サービスが、通知書の翻訳や説明の補助を提供している場合があります。対応範囲は事業者によって異なるため、利用前にサービス内容を確認することが重要です。

まとめ|家賃の値上げ交渉を成功させるために押さえるべきこと

家賃の値上げ交渉を成功させるためのポイントを整理します。

  • 借地借家法第32条に基づく賃料増額請求の要件
    (税負担の増加、経済事情の変動、周辺相場との乖離など)を確認する
  • 周辺相場データや固定資産税の推移など、客観的な根拠資料を事前に準備する
  • 通知書は改定理由・金額・適用開始日を明記し、余裕を持ったタイミングで送付する
  • 外国人入居者には多言語対応や文化的配慮を含めたコミュニケーション設計が必要
  • 契約書への賃料改定条項の組み込みや、管理会社・専門サービスの活用で交渉の手間を仕組みで解消する
     

家賃の値上げは、適切な手順と根拠を備えればオーナーの正当な権利として行使できます。

一方で、入居者との信頼関係を損なわないよう、丁寧な対応を心がけることが長期的な賃貸経営において大切です。

外国人入居者への対応を含め、家賃の値上げ交渉に不安がある場合は、外国人入居者支援に特化した専門サービスのサポート内容を確認しておくと、スムーズな運用につながります。

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