外国人の脱退一時金とは?金額・仕組み・支給条件から手続き・計算方法まで実務目線で解説 - GTN MAGAZINE
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外国人の脱退一時金とは?金額・仕組み・支給条件から手続き・計算方法まで実務目線で解説

外国人材が帰国するとき、企業の担当者が必ずと言っていいほど質問を受けるのが「日本で払った年金は戻ってくるのか」という論点です。その答えとなる制度が脱退一時金です。

厚生労働省の集計によると、令和7年10月末時点の外国人労働者数は2,571,037人で、前年比268,450人増(11.7%増)と過去最高を更新しました。外国人を雇用する事業所数も371,215所に達しています。外国人労働者の増加に伴い、脱退一時金に関する案内が必要となる場面も増えると考えられます。

出典:厚生労働省|「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)

しかも2025年(令和7年)の年金制度改正で、脱退一時金は支給上限が5年から8年へ引き上げられ、再入国許可付きで出国した場合は許可の有効期間内は支給されないという、実務インパクトの大きい見直しが決まっています。ところがこの改正、施行日の情報がWeb上で錯綜しています。

本記事では、脱退一時金の仕組み・支給条件・金額の計算方法・手続きの流れを官公庁の一次情報にもとづいて整理したうえで、2026年8月時点で何が施行済で何が未施行なのかを明確にします。社内説明や現場での案内にそのまま使える精度でまとめました。

目次

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外国人の脱退一時金とは?制度の仕組みをわかりやすく解説

脱退一時金とは、日本の公的年金(国民年金・厚生年金保険)に加入していた外国人が、年金を受け取れないまま日本を離れる場合に、納めた保険料の一部に相当する額を一時金として受け取れる制度です。老齢年金の「掛け捨て」を防ぐための特別措置として設けられています。

日本の老齢年金は、原則として保険料納付済期間などが通算10年に達しないと受給権が発生しません。技能実習や特定技能のように在留期間が数年で区切られる働き方では、この10年に届かないまま帰国するケースが大半です。そこで、一定の要件を満たした外国人に対して、加入期間に応じた金額を清算的に支払う仕組みが用意されています。

企業側から見れば、脱退一時金は「福利厚生」というより、退職・帰国時に案内しておきたい公的制度の一つです。説明が不十分なまま帰国させてしまうと、請求期限を過ぎて受け取れなくなり、後日トラブルに発展することがあります。逆に、正確な情報を出国前に伝えられる企業は、送出機関や本人からの信頼を得やすくなります。

脱退一時金が生まれた背景と制度の位置づけ

脱退一時金は、滞在期間が短く保険料納付が老齢給付に結びつきにくい外国人に対する特別措置として、1995年に創設された制度です。日本国籍を持たず、公的年金の被保険者資格を喪失し、日本国内に住所がない外国人が対象になります。

ここで押さえておきたいのは、脱退一時金が「還付」ではなく「給付」だという点です。納めた保険料がそのまま全額返ってくるわけではありません。厚生年金保険料は労使折半で負担しますが、脱退一時金の計算に用いられるのは本人負担分におおむね相当する水準であり、事業主負担分は戻りません。この点を誤解したまま「払った分は全部返る」と説明してしまうと、金額を見た本人が不信感を抱く原因になります。

また、脱退一時金を受け取ると、それ以前の日本の年金加入期間はすべて消滅します。将来的に日本へ戻って長期就労する可能性がある人材にとっては、必ずしも受け取ることが得とは限りません。制度を「必ず請求すべきもの」として一律に案内するのではなく、本人のキャリアプランを踏まえて情報提供することが実務上重要です。

関連記事:外国人が知るべき日本の社会保険~健康保険・年金保険・介護保険を解説

国民年金と厚生年金保険、脱退一時金は2種類ある

脱退一時金は1つの制度ではなく、加入していた年金制度ごとに別々の脱退一時金が存在します。国民年金と厚生年金保険の期間は合算せず、それぞれの保険期間に基づいて支給要件・支給額を判定します。

区分

主な対象者

支給額の決まり方

国民年金の脱退一時金留学生、自営業者、扶養から外れた配偶者など第1号被保険者だった人最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×1/2×月数区分ごとの数値(定額表)
厚生年金保険の脱退一時金企業に雇用され社会保険に加入していた人(技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務など)平均標準報酬額×支給率(報酬に連動)

出典:日本年金機構|脱退一時金の制度

企業が雇用する外国人材の多くは厚生年金保険の被保険者ですので、実務で扱うのは主に厚生年金保険の脱退一時金です。ただし、来日直後に日本語学校へ通っていた期間や、離職して次の就職までに空白があった期間は国民年金の第1号被保険者になっているケースがあり、両方の請求対象になることは珍しくありません。請求書の様式は「脱退一時金請求書(国民年金/厚生年金保険)」として共通で、1通で両制度を請求できます。本人には「働いていた期間だけでなく、日本にいた期間全体が対象になり得る」と伝えてください。

支給実績から見る「誰がどれだけ使っている制度か」

制度の規模感を把握しておくと、社内説明の説得力が変わります。厚生年金保険の脱退一時金の支給決定件数は、公表されている令和元年度が104,040件、令和3年度が93,167件、令和4年度が112,202件、令和5年度が102,408件で、おおむね年間10万件前後で推移しています。

注目すべきは加入期間の分布です。令和5年度の厚生年金保険の脱退一時金の支給決定者のうち84.3%が被保険者期間60月(5年)以下で、最も多い区分は「25~36月」の25.7%でした。技能実習3年、特定技能1号5年という在留の実態が、そのまま数字に表れています。

一方、永住許可を持つ人の受給は極めて少なく、令和5年12月~令和6年3月の調査では全体の0.11%(36,870件中41件)にとどまります。「永住者が制度を濫用している」といった言説は、少なくとも統計上は裏付けがありません。社内で誤解が生じた際は、この数字を示すと議論が整理できます。

さらに、平成26年度~令和5年度の10年間で複数回受給した人は33,183人(4.1%)おり、資格喪失から再加入までの期間は0~6月が49.5%を占めています。一度帰国して再来日する人材が一定数いるという前提で、受入れ体制を設計する必要があります。

脱退一時金の支給条件|要件一覧と請求できないケース

脱退一時金は、要件を1つでも満たさなければ支給されません。しかも要件の多くは「出国後でないと満たせないもの」と「出国前に手を打たないと満たせないもの」が混在しており、順序を誤ると受け取れなくなります。ここは実務上、特に注意が必要なポイントです。

すべての請求者に共通する支給条件

国民年金・厚生年金保険のいずれについても、次の要件をすべて満たす必要があります。

No.

支給条件

補足

1日本国籍を有していない帰化した人は対象外
2公的年金制度の被保険者でない資格喪失していることが前提
3日本国内に住所を有していない通常は転出届により住所要件を確認
4保険料納付済期間等が6月以上ある国民年金・厚生年金それぞれで判定
5老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしていない満たす場合は年金受給が優先
6障害年金などの受給権を有したことがない障害手当金を含む
7最後に被保険者資格を喪失した日から2年以内に請求している資格喪失日に日本国内に住所があった場合は、その後に住所を有しなくなった日から2年以内

これらの要件は請求時点で判定されます。したがって、退職して被保険者資格を喪失しただけでは足りず、転出届を提出して住所要件を満たした状態で請求する必要があります。請求書が受理される時点で「被保険者でないこと」と「日本国内に住所がないこと」の両方を満たしている、という点を最初に押さえてください。

「6月以上」は同一企業での勤続期間ではなく、厚生年金保険の被保険者期間の通算です。転職して複数社を経験していても、被保険者期間は通算されます。試用期間中に社会保険未加入だった期間は当然カウントされないため、加入漏れがあると本人の受給額に直接跳ね返る点に留意してください。

請求できない・不支給になる代表的なケース

条文どおりに読むと単純ですが、現場では次のようなつまずきが繰り返し起きています。

  • 転出届を出さずに出国した:住民票が日本に残っていると「日本国内に住所を有していない」要件を満たせず、請求が受け付けられません
  • 2年の請求期限を過ぎた:帰国後に手続きを先延ばしにして失権するパターンが最多です
  • 年金加入期間が10年に達していた:日本での就労が長期化した人材は、脱退一時金ではなく将来の老齢年金の対象になります
  • 障害年金・障害手当金を受け取ったことがある:金額の多寡にかかわらず要件を満たしません
  • 再入国許可を使って一時帰国しただけ:住所を有しない状態になっていないため、通常は請求できません

出典:日本年金機構|脱退一時金を請求する方の手続き

特に転出届の失念は、企業側の声掛けで確実に防げるミスです。退職手続きのチェックリストに「市区町村への転出届」を組み込み、離職票や源泉徴収票の交付と同じタイミングで確認する運用が有効です。転出届を出しておけば住民票の消除情報から住所要件を確認できるため、添付書類を1点減らせるという副次的なメリットもあります。

請求期限「2年」の起算日と実務上の注意

請求期限は「最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以内」です。ただし、資格喪失日に日本国内に住所がある場合は、その後、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以内という例外が適用されます。

出典:日本年金機構|脱退一時金の請求期限はありますか。

実務では後者に該当するケースが大半です。退職して資格を喪失した時点では、まだ日本に住んでいるのが通常だからです。起算日は「退職日」ではなく「住民票を抜いた日」になると理解しておくと、案内を誤りません。転出届に記載した転出予定日と実際の出国日がずれると、起算日の認定でつまずくことがあるため、両者を一致させるよう案内してください。

2年という期間は一見長く感じられますが、帰国後の生活立ち上げに追われるうちにあっという間に過ぎます。加えて、帰国先で日本語の書類を用意する難易度は日本国内の比ではありません。パスポートの写し、銀行口座証明、基礎年金番号がわかる書類を出国前に一式そろえてPDF化しておくだけで、請求手続きを進めやすくなります。

なお、日本年金機構は請求書について「出国前に日本国内から請求書を提出する場合には、住民票の転出(予定)日以降に請求書を日本年金機構へ提出してください」と案内しています。つまり、転出予定日より前に提出しても要件を満たしませんが、転出予定日以降であれば日本国内からの郵送も可能です。郵送の場合は転出予定日以降に到達するよう送付する必要があるため、出国直前に投函するといった対応が現実的な選択肢になります。

出典:日本年金機構|日本から出国される外国人のみなさまへ(脱退一時金請求書・注意事項)

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脱退一時金の金額はいくら?計算方法を制度別に解説

「結局いくらもらえるのか」は、本人からの質問で最も多い項目です。国民年金と厚生年金保険では計算ロジックがまったく異なるため、混同しないように整理します。

国民年金の脱退一時金額【令和8年度・2026年度】

国民年金の脱退一時金は、最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×1/2×保険料納付済期間に応じた数で計算されます。報酬に連動せず、納付月数だけで金額が決まる定額方式です。

令和8年度(2026年4月~2027年3月)の国民年金保険料は月額17,920円です。これをもとにした支給額は次のとおりです。

出典:日本年金機構|国民年金の保険料はいくらですか。

保険料納付済期間

令和8年度

令和7年度

令和6年度

6月以上12月未満53,760円52,530円50,940円
12月以上18月未満107,520円105,060円101,880円
18月以上24月未満161,280円157,590円152,820円
24月以上30月未満215,040円210,120円203,760円
30月以上36月未満268,800円262,650円254,700円
36月以上42月未満322,560円315,180円305,640円
42月以上48月未満376,320円367,710円356,580円
48月以上54月未満430,080円420,240円407,520円
54月以上60月未満483,840円472,770円458,460円
60月以上537,600円525,300円509,400円

出典:日本年金機構|国民年金の脱退一時金額

適用される年度は「最後に保険料を納付した月」で決まります。年度が替わると保険料額が改定されるため、同じ納付月数でも数千円から1万円以上の差が生じます。年度末に退職・出国する人材については、この点を説明しておくと納得感が高まります。なお、最後に保険料を納付した月(厚生年金保険は最終月)が2021年3月以前の場合は、36月(3年)を上限として支給額が計算されます。2021年4月以降であれば、それ以前の期間も含めて最大60月が計算対象になります。

出典:脱退一時金の制度|日本年金機構 

厚生年金保険の脱退一時金の計算方法と支給率

厚生年金保険の脱退一時金は、平均標準報酬額×支給率で計算されます。給与水準が高いほど金額も大きくなる、報酬連動型の仕組みです。

支給率は、最終月が属する年の前年10月時点の厚生年金保険料率×1/2×被保険者期間に応じた「支給率計算に用いる数」で求めます。厚生年金保険料率は平成29年9月以降18.3%で固定され、事業主と被保険者が半分ずつ負担しています。

出典:日本年金機構|厚生年金保険の保険料

厚生年金保険の被保険者期間

支給率計算に用いる数

支給率

6月以上12月未満60.5
12月以上18月未満121.1
18月以上24月未満181.6
24月以上30月未満242.2
30月以上36月未満302.7
36月以上42月未満363.3
42月以上48月未満423.8
48月以上54月未満484.4
54月以上60月未満544.9
60月以上605.5

平均標準報酬額の算定では、2003年3月以前の標準報酬月額には1.3を乗じ、2003年4月以降は標準報酬月額と標準賞与額を合算したうえで、全被保険者期間の月数で割って求めます。近年入国した人材であれば、実質的に「月給と賞与を月数で割り戻した平均額」と考えて差し支えありません。

賞与も算定に含まれる点は見落とされがちです。賞与のある企業に勤務していた人材は、月給から想像するより支給額が大きくなる傾向があります。

平均標準報酬額別のシミュレーション

支給率表を使うと、おおよその金額はその場で試算できます。以下は平均標準報酬額別の概算額(源泉徴収前)で、記事独自の試算です。

平均標準報酬額

12月

24月

36月

60月(現行上限)

200,000円220,000円440,000円660,000円1,100,000円
250,000円275,000円550,000円825,000円1,375,000円
300,000円330,000円660,000円990,000円1,650,000円
350,000円385,000円770,000円1,155,000円1,925,000円

ここで必ず伝えておきたいのが、この金額から20.42%の所得税等が源泉徴収されるという事実です。平均標準報酬額250,000円で60月加入していた人の場合、額面1,375,000円に対して手取りは約1,094,000円になります。「120万円くらい入ると思っていたのに100万円だった」という認識のずれは、事前説明で完全に防げます。なお、この源泉徴収分は後述の還付申告によって取り戻せる可能性があります。

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2025年の年金制度改正で脱退一時金はどう変わるのか

令和7年年金制度改正法(2025年6月13日成立、6月20日公布)により、脱退一時金の制度は2つの大きな見直しが決まりました。現時点で誤情報が多く流通している領域であり、社内説明の前に事実関係を固めておく必要があります。

出典:厚生労働省|令和7年度年金制度改正法が6月20日に公布されました

支給上限が5年(60月)から8年(96月)へ引き上げ

1つ目の見直しは、脱退一時金の支給上限を現行の5年から8年に引き上げるというものです。上限月数は2021年4月に3年(36月)から5年(60月)へ引き上げられており、今回が2度目の拡大となります。

出典:厚生労働省|年金制度改正法の主な改正内容

背景にあるのは、外国人材の在留の長期化と在留資格制度そのものの変化です。技能実習に代わる育成就労制度は令和9年(2027年)4月1日に施行され、育成就労の期間は3年以内、そこから移行する特定技能1号は5年間とされています。3年+5年=8年という滞在モデルが標準になるため、支給上限を8年に合わせる必要が生じたわけです。

出典:出入国在留管理庁|育成就労制度の概要(令和8年7月改訂)

支給率計算に用いる数は政令で定められるため、8年上限後の計算方法は2026年8月時点ではまだ確定していません。仮に現行の計算式を単純に延長し、支給率計算に用いる数を96とすると、支給率は18.3%×1/2×96=8.8となる計算です(記事独自の試算)。この場合、平均標準報酬額250,000円であれば額面2,200,000円規模となり、現行上限の1,375,000円から約1.6倍に増えます。育成就労と特定技能1号を通算して働き切った人材にとっては、無視できない差です。

再入国許可付きで出国した場合は有効期間内は不支給に

2つ目の見直しは、実務インパクトがさらに大きい内容です。再入国許可付きで出国した外国人には、許可の有効期間内は脱退一時金を支給しないこととされました。再入国しないまま許可期限を経過した場合には受給可能となる整理です。

この見直しの根拠は明確です。令和4年度の支給決定94,266件(出入国在留管理庁のデータと突合できた件数で、前掲の112,202件とは集計方法・集計対象が異なります)のうち、再入国許可付き出国が22,803件(24.19%)を占めており、そのうち特定技能1号が32.75%、技能実習が23.39%(1号0.38%・2号8.28%・3号14.73%)と大半を占めていました。

この見直しの根拠は、年金部会に示された厚生労働省年金局の整理にあります。『在留資格にかかわらず、再入国許可付きで出国した者は、日本に再度入国する意図を持って出国しており、再度日本の公的年金に加入し老齢年金の受給資格期間(10年)を満たし得る可能性がある』として、原則として単純出国した場合のみ脱退一時金を支給する方向が示されました。

実務面では、みなし再入国許可(入管法第26条の2)の扱いに注意が必要です。みなし再入国許可は出国から1年以内(特別永住者は2年以内)に再入国する場合に通常の再入国許可を不要とする仕組みで、出国時に意識せず利用しているケースがあります。帰国が確定している人材は、再入国の意思がないことを明確にして出国する運用が、改正後は一層重要になります。

出典:出入国在留管理庁|みなし再入国許可(入管法第26条の2)/脱退一時金について 

施行日は「公布から4年以内の政令で定める日」

ここが本記事で最も強調したい点です。脱退一時金の見直しについて、厚生労働省の資料は施行時期を「公布から4年以内の政令で定める日」と明記しています。

出典:厚生労働省|年金制度改正法に関する広報について(第25回社会保障審議会年金部会 資料3・2025年6月30日)

公布日は2025年6月20日ですので、遅くとも2029年6月までに、政令で定める日から施行されることになります。Web上には「2026年4月施行」と記載した解説記事が複数存在しますが、これは在職老齢年金の基準額引上げ(2026年4月施行)などと混同したものと考えられます。

2026年8月時点において、日本年金機構が公表している支給上限は引き続き60月(5年)であり、再入国許可付き出国者への不支給規定も適用されていません。つまり、いま帰国する人材に対しては現行ルールで案内するのが正しい対応です。

社内説明では、次のように整理すると誤解が生じません。

項目

2026年8月時点の取扱い

改正後の取扱い

支給上限60月(5年)96月(8年)
再入国許可付き出国要件を満たせば請求可能許可の有効期間内は不支給
施行日現行制度が適用中公布(2025年6月20日)から4年以内の政令で定める日

改正内容そのものは確定しているため、中長期の人材計画には8年上限を織り込みつつ、足元の個別案内は現行ルールで行うという二段構えで整理することが実務上適切です。政令の公布時期は年金部会や厚生労働省の発表で確認できるため、定点観測の対象に加えておくことをおすすめします。

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脱退一時金の手続き|必要書類と請求から入金までの流れ

手続き自体は難しくありませんが、出国前・出国後でやるべきことが分かれている点が最大の落とし穴です。手続きの時期や順序を正確に確認する必要があります。

出国前に済ませておくべき2つの手続き

1つ目は市区町村への転出届です。これを提出しておくと、住民票の消除情報から日本国内に住所を有しないことが確認できるため、「日本国内に住所を有しなくなったことが確認できる書類」の添付が不要になります。要件の確認と添付書類の簡素化につながる重要な準備の一つです。

2つ目は「所得税・消費税の納税管理人の届出書」の提出です。厚生年金保険の脱退一時金からは20.42%が源泉徴収されますが、これは後述の還付申告で取り戻せる可能性があります。非居住者が確定申告書の提出や還付金の受け取りなど日本の国税に関する手続きを行うには納税管理人を定める必要があるため、帰国後の申告・還付手続きは、日本国内に住所または居所のある納税管理人を選任して行うのが一般的です。この届出は、出国前に済ませておくと、その後の申告手続きを進めやすくなります。

このほか、基礎年金番号通知書(または年金手帳)、パスポート、母国の銀行口座情報を本人が確実に保管しているかを、退職面談の場で確認してください。帰国後に「番号がわからない」となると、照会に時間を要して2年の期限を圧迫します。

提出書類と提出先

請求書は日本年金機構のサイトからダウンロードでき、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、フィリピノ語、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語、カンボジア語、ロシア語、ネパール語、モンゴル語の各言語と日本語が併記された様式が用意されています。本人が理解しやすい言語で確認できるため、説明負担の軽減につながります。

書類

内容・確認事項

脱退一時金請求書日本年金機構のサイトからダウンロード。多言語併記様式
パスポート(旅券)の写し氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ
日本国内に住所を有しなくなったことが確認できる書類転出届提出済であれば不要
受取先金融機関の口座証明書銀行が発行した証明書等。銀行名、支店名、口座番号、口座名義が本人であることの確認
※ ゆうちょ銀行および一部インターネット専業銀行では脱退一時金を受け取れないため要注意
基礎年金番号通知書または年金手帳等年金加入期間の確認

提出先は、加入していた制度とその期間によって変わります。国民年金・厚生年金保険のみの場合は日本年金機構です。共済組合等の期間がある場合は、国民年金の保険料納付済期間等が6月以上あれば日本年金機構、6月未満であれば最後に加入していた被用者年金の実施機関に請求します。

口座名義は必ず本人名義である必要があります。家族名義の口座は指定できないため、事前確認の対象に入れておいてください。

請求から支給までの期間と受取方法

日本年金機構は、提出書類に不備や確認事項がなければ請求書の受付後およそ4か月後に支払うとしています。書類に不備があれば、さらに時間がかかります。帰国直後の生活資金として当てにしていると資金繰りが狂うため、「すぐには入らない」ことを必ず伝えてください。

出典:日本年金機構|脱退一時金の請求書を提出したのですが、受取までにどれくらい時間がかかりますか。

支給は本人が指定した金融機関口座への送金で行われます。送金手数料や為替レートの影響を受けるため、請求書に記載した額面と着金額は一致しません。この点も事前説明の対象です。

支給決定後には、支給額や源泉徴収税額が記載された通知書が本人あてに送付されます。この通知書は還付申告に必須の書類ですので、届いたら必ず保管するよう案内してください。納税管理人を立てている場合は、通知書の写しを速やかに納税管理人へ共有する段取りまで決めておくと確実です。

税金と社会保障協定|見落とすと損をする2つの論点

脱退一時金の解説で省略されがちですが、金銭的インパクトが大きいのがこの2点です。知っているかどうかで数十万円の差が生まれることもあります。

20.42%の源泉徴収は還付申告で取り戻せる可能性がある

非居住者が受け取る厚生年金保険の脱退一時金には、20.42%の税率で所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。これは所得税法上、退職手当等として国内源泉所得に区分されるためです。

出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

ただし、「退職所得の選択課税」を選択して申告すれば、源泉徴収された税額の全部または一部が還付される可能性があります。退職所得控除を適用して居住者と同様に税額を計算し直す仕組みです。退職所得控除額は勤続年数20年以下の場合「40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)」で計算されるため、在留期間が短い人材ほど控除の効果が大きく、脱退一時金の額によっては全額還付になるケースも珍しくありません。

出典:国税庁|No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

出典:国税庁|退職所得の選択課税の記載例(出国後受け取った退職金・脱退一時金)

還付を受けるための実務手順は次のとおりです。

  1. 出国前に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を納税地の税務署へ提出する
  2. 帰国後、脱退一時金の支給決定通知書を受け取る
  3. 支給を受けた年の翌年1月1日以後に、納税管理人が「退職所得の選択課税の申告書」を、日本国内における最終の住所地または居所地を管轄する税務署へ提出する
  4. 還付金を受け取る

最大のハードルは納税管理人の確保です。企業が退職者全員の納税管理人を引き受けるのは現実的ではありませんが、少なくとも「納税管理人を立てれば還付を受けられる」という情報を提供することは可能です。税理士等の専門家を紹介する、社内の総務担当者が引き受ける、といった運用方針をあらかじめ決めておくと対応がぶれません。

社会保障協定「通算あり」の国は請求前に検討が必要

日本は複数の国と社会保障協定を結んでおり、協定国の年金制度に加入していた期間と日本の加入期間を通算できる場合があります。通算により受給資格期間を満たせば、将来母国で日本の老齢年金を受け取れる可能性が生まれます。

ここが重要な分岐点です。脱退一時金を受け取ると、それ以前の日本の年金加入期間はすべて消滅します。通算できるはずだった期間まで失われるため、協定国出身者にとっては「受け取らない」ほうが有利になるケースがあります。

2026年8月時点で協定が発効している国と、保険期間の通算の可否は次のとおりです。

通算

国名

通算ありドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、オーストリア
通算なしイギリス、韓国、中国、イタリア

出典:日本年金機構|協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度

実務上の含意は明確です。フィリピンやインドの人材は「通算あり」の協定国であり、脱退一時金を請求する前に将来の再来日可能性を確認する価値があります。一方、ベトナム、ミャンマー、インドネシア、ネパールなどは協定未発効であり、現時点では社会保障協定による期間通算ができないため、脱退一時金を請求するかどうかを本人の将来の在留・就労予定も踏まえて検討することになります。

なお、平成26年度~令和5年度の支給決定833,806件の内訳は、通算ありの協定発効国が115,882件(13.9%)、通算なしの協定発効国が303,314件(36.4%)、協定未発効国が414,610件(49.7%)でした。約半数が協定未発効国からの人材であり、この層に対しても制度を案内したうえで、本人の将来の在留・就労予定等を踏まえて請求の要否を検討してもらうことが適切です。

企業・受入れ機関が押さえておきたい実務対応

脱退一時金は本人の手続きですが、企業が関与できる余地は想像以上に大きい領域です。以下の4点を退職・帰国フローに組み込むだけで、トラブルの大半は防げます。

1. 退職・帰国のチェックリストに組み込む 転出届の提出、納税管理人の届出、基礎年金番号通知書の確認、口座情報の確認。この4項目を離職手続きのチェックリストに追加してください。出国後に日本国内で行える手当ては極端に限られるため、出国前の一手が結果を左右します。

2. 説明のタイミングを「退職時」ではなく「入社時」にも設ける 入社時のオリエンテーションで年金制度の全体像を伝えておくと、給与から控除される厚生年金保険料への納得感が高まります。保険料の控除に対する不満は、制度理解の不足から生じることが大半です。

3. 社会保険の加入漏れをなくす 被保険者期間が6月未満だと、そもそも脱退一時金は支給されません。試用期間中の加入漏れや、資格取得届の遅延は、本人の受給権に直接影響します。加入手続きの適正化は、コンプライアンス対応であると同時に、人材への誠実さの表れでもあります。

4. 改正の施行日を定点観測する 支給上限8年化と再入国許可付き出国者への不支給は、施行日が政令に委ねられています。中長期の要員計画には8年上限を織り込みつつ、個別案内は現行ルールで行うという二段構えを維持し、政令の公布を確認したタイミングで社内資料を差し替える体制を整えておきましょう。

こうした出国前後の手続き支援や、入社時の多言語での制度説明までを含めて外部に任せたい場合は、外国人材の受入れ支援サービスの活用も選択肢になります。GTNでは、在留資格手続きから生活支援、雇用管理までを一貫して支援する体制を用意しています(企業向け受入れ支援サービス/生活支援サービス)。

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